
「あなたのプライオリティが知りたい」
そう、モニカは言う
「何かに例えて説明してちょうだい」
私は、スキーに例えて、
モニカに説明しようとする。
「①朝のまどろみと、夢、
②遅い朝食、
③スキーウェアに着替える
④リフトに乗る
⑤滑る
⑥充分に滑ってサウナとジャグジーに入る
⑦夕食の前にバーで軽く飲む
⑧夕食、
⑨読書、またはセックス
⑩眠りに就く
・・・それが、スキーに行った時の一日の出来事だ、全部で十の項目がある、
①をファーストプライオリティに推す人間は幸福な人だと思う、
②を選ぶ人はビジネスマンに向いている、
③の人は、きっとファッション業界の人間や俳優になっているかもしれない、
④が好きな人は健康を愛する人だろう、
⑤は平凡だが、からだの限界を超えて滑ってしまう人はプロのスポーツ選手かも知れない、
⑥はこれも楽天家だ
⑧は政治家?
⑨は家庭人で、
⑩は生まれながらの年寄りか、働き者ののうかだろう」
「あなたは?」
「ボクは⑦だ」
「⑦はどういうタイプなの?」
「自分ではわからない」
「何かが始まる前で、何かが確実に終わった後、ということかな?」
「そうかもしれない」
「正直に言ってみてくれる?例えばこの、今の夕暮れのようなものかしら?」
村上龍 モニカ